ごみ足りない!
東京都の清掃工場、不況で焼却炉の休止続々
ごみがあふれかえっているはずの東京都の清掃工場が、実は「ごみ不足」に 悩んでいる。バブル期、激増するごみを処理しようと大型焼却炉を整備してき たのに、不況と官民あげての減量努力で、予測した以上に量が減ったためだ。 燃やすごみが少ないとダイオキシンが発生する恐れもあり、一部の焼却炉を止 めたままにする工場も出てきた。ごみ発電による収入も減っている。大量にも のをつくって、最後は燃やすという日本経済の仕組みが見直されるなか、こう した「ごみ不足」の悩みはいずれ全国に広がるとみられている。 1998年10月に完成した新江東工場は国内では最大級の1日処理能力6 00トンの焼却炉を3つ、備えている。操業開始のころ、すでにごみは激減し ていて、これまで3炉を全部稼働させたのは、全操業日数の25%にすぎな い。工場の担当者は「1炉は事実上の予備炉になっている」と明かす。 今年5月以降、燃やすごみの量が2炉で1000トンしかない日がある。こ れ以上焼却量を減らすと、温度の変動が起き、ダイオキシン発生のおそれがあ る下限の量だ。都内の他工場から「ごみの回し」をしてもらう手もあるが、 「最近はどこも足りない」という。他県のごみは住民感情もあって簡単には持 ち込めない。 杉並工場には300トンの炉が3つある。うち1炉は当初から予備炉。操業 開始の82年からずっと2炉を使ってきたが、去年五月からはときに、もう1 つの炉も止める。1年のうち計3カ月が1炉運転になった。 困るのは、発電量も落ちたこと。都内の清掃工場はどこも発電施設を備え、 電気を東京電力に売る代金が東京23区清掃一部事務組合の大きな収入源にな っている。杉並工場には出力600キロワット、約3000世帯分の電気をつ くれる発電機が1機ある。ごみが毎日600トン集まれば、年に1億8000 万円近くを稼げるのに、99年度は6000万円少なかった。「不況下、収入 減は痛い」と水上啓副工場長。電気の売値の高い昼間に、たくさん燃やすよう に工夫している。 東京のごみ量はバブル景気に乗って増え、89年に490万トンと史上最高 の量を記録した。都はごみ減量のキャンペーンを展開すると同時に、大型工場 の新設と建て替えに乗り出した。港、墨田など3工場が新設されて、23区内 の工場は17になり、2工場が建設中だ。さらに将来、新宿、中野、荒川区に 3工場を新設する計画がある。 ところが、バブル崩壊後、ごみの量は都の予測を下回る。99年は、384 万トンの読みに対し、実際は360万トンと石油危機後の不況時の水準にまで 減った。 東京23区一部事務組合によれば、17工場のごみ処理能力は現在、集まる ごみ量の約1.2倍。しかし、「事故や定期点検、工事などもあり、炉に余裕 があったほうがいい」と言う。 大阪や名古屋でもごみは減り始めている。ほかの市町村でも増え方は確実に 鈍っている。市町村の担当者は「全国的にごみが減る日が来る」と口をそろえ る。 □ □ ○「脱・焼却」、波及も 熊本一規・明治学院大学教授の話 ごみが右肩上がりで増えるとはもう考え られない。大きな焼却炉を満たすごみが集まらないという東京での現象が日本 中で起きる可能性がある。大量生産、消費、廃棄という戦後の日本経済の末端 を担ってきたのが大焼却炉で、日本は世界有数の焼却大国になった。成長が善 だという焼却路線はもう脱却して、ごみの発生を抑制する社会をめざした方が いい。 <2000年6月7日朝日新聞紙面より> |