食品循環資源を堆肥化して農業利用する流れを検討するときに、生ごみに由来する「塩分」の生育阻害が話題になることがある。
このときの「塩分」の範囲がNaClだけを示す場合と、広く栄養塩も含む意味で使われる場合、あるいはきわめて曖昧にイメージとして指摘している場合とがある。調理に用いる「塩」や廃棄された弁当に含まれる「醤油」「ソース」の容器を思い浮かべると、確かに問題があって農地還元は無理ではないか、だからそもそも堆肥化処理を選択すべきではない、と思考は誘導される。
はたしてこの指摘は適切だろうか、問題があるとしても軽減策はないのだろうか、検討してみる。
土壌関係者で塩分(Cl)濃度の生育阻害に対するポット試験の結果では、1000ppm以下であれば、まったく問題は生じないとされている。(農業技術協会伊達氏談)
ところで、一般的な生ごみの塩分濃度はどの程度であろうか。前記の廃棄弁当などでも2~3%以下と考えて良いであろう。(そうでなければ私達は極端に高塩分の食事をしていることになってしまう)
この範囲の堆肥材料を、水分調整機能のある副資材と乾物ベースで1:2で混合することで濃度は1/3になる。ただし、堆肥化の過程で固形分が失われるのに対し、塩分の絶対値は減少しないから、堆肥熟成後の塩分は1%前後の含有率(乾物ベース)になることもあろう。しかし、この程度であれば、一般的な堆肥施用量である2トン/10a(現物ベース)で10aに対し施される塩分は、10kg程度である。10aの畑の作土の土壌の全体重量を180トンとすると、施用堆肥による塩分増加は55.5mg/kg (ppm)でしかない。さらに、土壌中の塩分は降雨等により溶脱されるので、長期の積算はありえない。
このような濃度であれば作物に生育阻害を及ぼす恐れは少ないが、施用量を規定する要因になることはある。例えば、通常の堆肥で窒素含量に基づいて施用量が確定されているのに対し、ある生ごみ由来堆肥の塩化カリ(KCl)濃度が高かった場合には、その絶対量の面から施用量を規定することも考えられる。このような事例が発生することを想定しておくべきではあるが、このことは堆肥としての利用可能性を否定するものでは全くないことに留意しなければならない。
塩分濃度の高い有機廃棄物の代表的例が「醤油粕」である。これは、約10%の含有率と言われている。従って、栄養価は高いものの、有効利用されずに焼却処分されているのが実情である。
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